日本の天然水パワー再発見! 和紙作りを支えてきた水の力とは?
水が決め手となる製品といえば、何を思い浮かべるだろうか。お酒、そば、うどん、豆腐といった食品をイメージする人は多いだろう。日本は昔から世界有数の水資源に恵まれた国で、水稲栽培などもいい水が豊富にあったからこそ進化をとげてきたといえる。実は食べ物だけでなく日本伝統の工業製品でも、水の質と密接な関係があるものがいろいろある。その中で今回は「和紙」が、水とどうかかわってきたか調べてみた。
◆和紙作りには水が欠かせない
障子やふすま、掛け軸、書道や折り紙など、現代でも和紙を必要とする場面は多い。最近では、美しさと質感、精密な作りが注目されてか、外国でも人気が高くなってきている。
和紙の特長は、質感が優しいとか手触りがいい、光の透過がキレイといった、感覚的なことばかりではない。丈夫で長持ちという実用的な部分も大きい。和紙のタフさの証拠として代表的なのは、奈良の正倉院に所蔵されている「国家珍宝帳」だろう。1200年以上も昔の書物だが、各ページはしっかりとしており、文字もハッキリと読める。
和紙が非常に手間をかけて作られることは、よく知られているが、その一般的な工程をおさらいしておこう。原料となるのは「楮(コウゾ)」や「三椏(ミツマタ)」という植物。これらの幹の、皮の部分が材料となる。丈夫な繊維を持っていることが、両者の特長だ。
この繊維を取り出すため、蒸したり叩いたりして、成分を分離させる。その後、水で煮たり苛性ソーダなどの中に入れたりしてほぐし、柔軟にしていく。細かくなった繊維は、「トロロアオイ」という植物をつぶしたものと混ぜ合わされる。トロロアオイは粘り気があるため、紙の「つなぎ」として用いられる。そして、繊維と繊維をつなぎとめる働きはあるものの、紙同士がべったりくっつかないという特性がある。濡れた和紙を重ねても貼りつかないのはこのため。和紙の原料は実によく考えて選ばれているのだ。
古くから和紙の里の近くには、いい水があった
こうして作られた「和紙のもと」を「すき舟」といわれる平らな道具の上で前後にゆすり、厚さが均等になるようにならしていく。和紙作りではよく知られた作業だろう。形が整ったら、すき舟からはがし、乾燥させると和紙の完成だ。
ここまでの間に、原料を煮たり混ぜたり洗浄したりと、水を使う工程がいくつもある。和紙製造には水が非常に重要な働きをするのだ。当然、キレイな水を使うことになるのだが、清流ならいいのかというとそうではない。「水質」も関係しているようなのだ。
水は含まれるミネラルによって「硬水」と「軟水」に分けられる。世界保健機関の基準では水1リットル中に、マグネシウムとカルシウムが120ミリグラム以上含まれると硬水で、それ未満は軟水になる。日本の水は地域によって差はあるが、水道水も天然水もほぼ軟水だ。
ウォーターサーバーに使われている水を例に取ると「プレミアムウォーター」の「富士の天然水」は25ミリグラム、「キララ」は28ミリグラム、「うるのん」の「富士の天然水」は29ミリグラム、「アルピナウォーター」は、高機能のRO膜というフィルターでろ過しているため、なんと1.05ミリグラムという超軟水だ。
一般的に含まれるミネラルが多すぎないほうが、水の味がまろやかであるという。また、食品への浸透性が高いため、お茶をいれたり出汁を取ったりご飯を炊いたりといったことに適していることが知られている。
◆和紙に適した水質は?
実は和紙を作るときにも、軟水が向いているという。福井県和紙工業協同組合によると、同地で作られている「越前和紙」は、工場近くの谷川の水と井戸水を、各工程に使用している。その理由は、水質が中性で軟水であるからとのこと。愛媛県の西条市も「周桑(しゅうそう)手すき和紙」など和紙の製造が盛んだが、同市の水も硬度は40ミリグラム以下と低い。
水が酸性やアルカリ性に極端に偏っていたり、ミネラル分が過剰だったりすると、和紙の原料と化学反応を起こしてしまう可能性がある。マグネシウムやカルシウムだけでなく、鉄や銅も同様だ。何百年も昔に、ミネラル分や水質を計測する機器はなかった。和紙職人たちは、試行錯誤と経験を重ねながら和紙作りに最適な水を見つけていったのだろう。
水は口にするだけでなく日本の産業も支えてきた
水の硬度は、地下水や伏流水を生成する地質が大きく関係する。石灰岩などカルシウムを含んだ岩石や地層があると、硬水になる傾向がある。欧米ではマグネシウムやカルシウムが水に溶けやすい地質の場所が多いため、硬水の天然水が多い。硬水の産出地域で和紙を作ろうと思っても、日本製と同じようにはいかない可能性がある。そう考えると和紙とは、日本のおいしい水があったからこそ生まれた、伝統工業製品なのかもしれない。
ウォーターサーバーに使われている水のほとんどは、国内の天然水を使っている。そんな水を飲みながら、長い年月、食生活と文化に貢献してきた日本の水資源のことに思いを馳せてみてはどうだろうか。