最大数十倍も!? 全国水道料金格差からみた水のありがたみ
毎日なにげなく使っている水道。すでに家庭用ウォーターサーバーを導入していたり興味を持ったりしている人は水への意識も高く、月々の水道料金のチェックもしっかりやっていることが少なくないだろう。実は、水道料金は全国的に見ると開きが大きく、安い地域と高い地域とでは数十倍の格差があるのだ。そこで、料金が高い地域、安い地域の事情を調べてみた。
◆地形的に不利な場所に引いた貴重な水
一般的に多く使われている、水道の口径20mmでの20立法メートルあたりの月額料金で、日本一高いのは熊本県宇城市の中の「郡浦簡易水道」を利用している地域。月のお値段、なんと8940円! 全国的な平均は3000円前後なので、実に3倍もする。ところが、同じ宇城市でも一番安い地域では2310円と平均以下の安さ。この違いはどこからくるのか? 宇城市上下水道課に聞いてみた。
「宇城市は2005年に、三角町、不知火町、松橋町、小川町、豊野町の5つの町が合併してできた市なので、現在の市内には6つの水道の系統があります。料金体系も水源ごとに違ってきます。中でも旧三角町の郡浦という地域は、昔から水の便が悪く、苦労してきた歴史があります。料金が高くなってしまうのは、水道設備の工事や維持管理のためなのです」(同課担当者、以下「」内は同)
天草へ向かう道は水にとっても険しい
同地域は天草へ向かう宇土半島にあるのだが、急斜面の小さな山脈が筋のように連なった地形をしている。山から川は流れているものの、狭く急峻な半島ではため池を作ったり水道管を通したりすることが容易でないことは想像がつく。
「地域の方にとっては問題なく水が使えることが何にも代えがたいので、水道料金については以前よりご理解いただいています。よそから転入された方はちょっと驚かれるみたいですが。ただ市としては将来的には、格差を埋めた料金体系にできたらと考えることはあります」
青森県平川市も、水道料金が高い場所の一つだ。久吉ダム水道企業団が管理している水道は1か月6279円。しかし、市内の上水道には2系統あり、もう一方の平川市が管理している水道は4426円と、やや高いなと感じる程度。同じ市で2000円近い差があり、2種類しかないのであれば一つにまとめたらいいと思うのだが…。同市の上下水道課担当者はこう話す。
「平川市は2006年に、南津軽郡にあった尾上町、平賀町、碇ヶ関村の3町村が合併してできました。碇ヶ関村だった地区の方は以前から久吉ダムから給水していたので、現在もそのままの水道を使っています。住民の方からは『一つにできないか?』というお話もあるのですが、私たちとは事業体が違うため、そう簡単にはいかないのが実情です」(平川市上下水道課担当者)
碇ヶ関地区は旧尾上町・旧平賀町とは地理的に少し離れていて、隣接する大鰐町と水源を同じくしているので、むしろ大鰐町と料金体系が同じなのである。簡単に統一できないのは、地勢的な課題もあるのだ。
久吉ダム水系の料金が、市の水道より高いことにはわけがある。険しい山間部であるため、昔から水の安定供給には苦労してきた。生命線である水のインフラ整備と引き換えに水道料金が高くなってしまったのは、前出の熊本県宇城市と同じくやむを得ないことなのだろう。また、1990年代に浄水場を新しく整備した点も高くなってしまった理由の一つだが、これにより水道の利便性が向上し、給水域も拡大した。
ところで、水道料金が全国で2番目に高いのは北海道夕張市。これは財政破たんの影響が大きい。
◆水道代が数百円という格安のワケ
全国で最安値の水道料金を誇るのが、愛媛県八幡浜市だ。矢野畑簡易水道を例に取ると月額210円。水道料金は2000円や3000円が当たり前と思っている身としては驚くばかりだ。この安さの理由について、同市水道課の担当者はこう説明する。
「ときどき問い合わせを受けるのですが、200円、300円という料金で運営しているのは『簡易水道』なのです。各地区の住民が地域で引いて使っているので、いわゆる上水道とは違います。八幡浜は海から上がると内陸部はほとんど山と谷で構成されています。ですから通常の上水道を通そうとすると、高い場所に給水施設を造りそこに水を溜めるなり送るなりしないとなりません。そこで、山間の地域では近隣のわずか数戸が使うための小規模の簡易水道を作って、水を確保しているのです」
八幡浜市には簡易水道が特に多く引かれており、いかに水道を通しづらい地形か想像もつこうというもの。同地域で何としても水を引かなければならない理由の一つが、ミカンの栽培だ。先人たちの整備のおかげで、同市のミカン生産量は愛媛県でもっとも多くなった。ちなみに八幡浜市が管理する上水道は、前出の基準に当てはめると月額3570円と全国平均レベルだ。
八幡浜は水の利に工夫をこらしミカンの一大産地に
水の便が悪い地域の人に聞くと、さまざまな工夫をしながら水を大切に使っているという。飲んだり料理をしたりするときは水道水、洗濯や風呂などは井戸水や沢の水を利用するなどだ。これは家庭用ウォーターサーバーを導入し、目的に応じて使っている人には共感できる点ではないだろうか。
水道料金から、地域ごとの歴史や地勢との深い関わりが見えてくる。知れば知るほど「水のありがたさ」もわかるので、住んでいる地域の水道が、なぜその料金になったかを調べてみると面白いかもしれない。