魚を飼うのに適した水は意外にも水道水だった!?
アクアリウムは自分で育てる楽しみや見る楽しみのほか、最近では水槽の写真を撮りSNSにアップして多くの人に見てもらったり、同好の士と交流を深めたり…といった楽しみ方をする人が増えている。キレイに整備された水槽は美しく、確かに見ていて癒される。魚を飼う上では当然「良い水」が必要になってくるわけだが、果たしてどんな水が適しているのだろうか? 水道水? ナチュラルウォーター? それともミネラルウォーター? また、普段家族で愛用しているウォーターサーバーの水はどうなのだろうか? 熱帯魚専門店で聞いてみた。
◆魚の飼育には水道水がいい!?
熱帯魚の直輸入直販店では、東京都内でも最大級の「パウパウアクアガーデン銀座店」(東京都中央区)の副店長・鈴木忠雄さんが解説する。
「私たちが日ごろ手軽に入手できる水としては、水道水、ミネラルウォーター、アルカリイオン水などがあります。人間が飲む水としてはいずれも問題ありませんし、体に良くおいしい水もたくさんあります。ところが、魚の飼育にベストな水は結論からいうと、水道水なのです」(鈴木さん、以下「」内は同)
水道水はご存じのとおり塩素で消毒されており、わずかながら塩素のニオイがすることもある。また、消毒用の塩素と水中の有機物が反応すると、トリハロメタンが生成される。塩素もトリハロメタンも家庭の蛇口から出る水は、長期摂取しても問題はない程度の量になっているが、どちらも自然界の水の中にはまず含まれることのない物質だ。しかし、魚を飼うのに水道水を使っても本当に大丈夫なのだろうか?
テトラは初心者にも人気の魚
「もちろん水道水を、そのまま水槽に入れるわけではありません。蛇口からくんだ水に塩素の『中和剤』を入れるのです。これは一番ポピュラーで簡単な方法で、魚にとって有害な塩素はなくなります。飼育用の専用浄水器というのもあり、場所はちょっと取りますが、塩素もトリハロメタンもろ過してくれます。これらの薬剤や機器は、一般的な水道水を改良する前提で作られているので、『水槽の水作り』には水道水を利用するほうがいいのです。宅配の水には塩素などは入っていないと思いますが、魚に適しているかというとハッキリしたデータがまだないので、水道水から作る方法を推奨しています」
塩素の中和剤(左)と、各種の「ろ材」(右)
また、人間にとって安全でおいしいウォーターサーバーの水も、魚の飼育にいいかというと「わからない」というのが現状のようだ。ミネラルウォーターの場合は、魚が生息していた地域の水よりも大量のカルシウムやマグネシウムが含まれていることもあるだろう。
昔から金魚の飼育には「くみ置きの水」を使うといいといわれている。では、中和剤や浄水器を使わずに、塩素を蒸発させてしまえばいいのではないだろうか? しかし、鈴木さんによると、これも推奨できないそうだ。何日置いたら塩素が抜けるのか季節によって変わるし、浄水場ごとに塩素の量が違うことがあるからだ。また水が腐敗して、魚に悪影響を与える菌が繁殖してしまうこともある。
◆初心者が手軽に始められる水槽も
「魚にとって棲みよい水を作るには、ろ過して汚れも取り除く必要があります。方法は2つあり、1つは『物理ろ過』、もう1つは『生物ろ過』です。物理ろ過は、水を不純物を漉してくれるマットを通してキレイにするものです。生物ろ過は『ろ材』という石を水槽に入れ、バクテリアを繁殖させます。バクテリアが魚の排せつ物から出たアンモニアなどを分解してくれるのです」
このバクテリアもちゃんと売られているので、水槽に投入するだけでいい。繁殖して定着するまで少し時間はかかるが、魚を健康に生かすためには大切なことなのだ。そのほか、水槽に付着したコケは「クリーニングフィッシュ」と呼ばれる小魚を入れておくと、勝手に食べてくれるという。
「小さなエビも食べかすなどの掃除をしてくれるので、オススメです。とはいえ、水は換える必要はあります。このときに気をつけたいのは水温。魚は水温が2度変わると、人間でいうと10度くらいの違いに感じるようです。魚のストレスが増大するので、新しく入れる水の水温と水槽の水温は合わせるようにしましょう」
水の状態を調べるために、水温計、塩素テスター、酸性やアルカリ性の度合いを調べるpHチェッカーなど様々な器具も販売されている。覚えなければならないことや初期の投資を考えるとハードルが高く見えてしまうが…。
華やかなエビを水槽の主役にしてもいい
「アクアリウム作りに凝る人は魚の種類を増やしたり、繁殖させたり、水草を草原や森のように配置したり、魚が隠れる土管を沈めてみたり…といった楽しみ方をされます。でも金魚鉢程度の水槽で飼え、しかも華やかな淡水魚もいますから、初心者はそうした魚から飼い始めてもいいかもしれません。水槽の掃除屋として脇役だったエビにも、色がキレイな種類があります。魚より神経質に扱わなくてもいいので、最近はエビを飼う方も増えていますね」
ということで、実はウォーターサーバーの水は、魚を飼うのにはあまり適してはいないことがわかった。では、われわれ人間は、おいしい水でいれたお茶を片手に、優雅に水槽を眺めることにしよう。
参考
「パウパウアクアガーデン銀座店」公式サイト