獣医に教えてもらうペットのための正しい水選び
家族の一員でもあるペット。ともに長く健康に生きていきたいと、飼い主なら誰もが願っている。そこで重要になるのは、ペットの食生活。ペットの健康にいいペットフードを選んでいる人は多いと思うが、意外と見過ごされがちなのが飲み水だ。そこで、ペットとして最も多く飼われている犬と猫と、水とのかかわりについて、「プリモ動物病院練馬 動物アレルギー医療センター」(東京都練馬区)の川野浩志院長にうかがった。
◆水をいつもより多く飲み始めたら要注意!
まず、犬や猫にとって必要な水について、川野院長はこう話す。
「犬も猫も1日に必要とする水分量の目安は“体重1kgにつき50~60mL”です。5kgの犬でしたら250~300mLの飲み水が必要ということになるので、その量が補える環境を整えておきましょう。特に犬は夏場では熱中症対策として、どこでも新鮮な水を与えられるように準備しておく必要があります。また、水分だけではなく喪失した塩分などのミネラルを補えないと脱水症になってしまいます」(川野院長、以下「」内は同)
お皿にしろ給水装置にしろ、最低限1日に必要な水分を摂れる用意をしておきたい。では、その水は多いに越したことはないのだろうか?
「犬も猫も1日に体重1kgあたり80mlを超える水分を摂取する場合は、病気が隠れている可能性が高くなります。普段よりもやたらと水を飲むと感じたら、獣医の診察を受けたほうがいいと思います。特に猫は“体の水の出し入れ”が、体の構造上あまりうまくいかないので、水を多量に飲みだしたら気をつけてください」
たとえば、透明なタンクの給水器などなら、減った量もわかりやすいのではないだろうか。
犬も猫も体重1kgにつき50~60mLの水が必要
では犬や猫にはどんな水を与えるのがいいのだろうか? できるだけ、キレイで安全でペットが喜ぶ水をあげたいものだが…。
「日本国内であれば、水道水を与えてもペットの健康に問題が出る可能性は極めて低いといえます。水道水に含まれる残留塩素やトリハロメタンが、ペットの健康に悪影響を与えるのではないかと不安になる飼い主さんもいますが、まず大丈夫と思ってかまいません。もちろん、宅配されてくるウォーターサーバーの水もいいでしょう」
◆尿石症のペットは水の硬度に気をつける
市販されている飲料水の中には、ミネラル分が多く含まれているミネラルウォーターもある。特に硬度が高い(カルシウムやマグネシウムが多く含まれる)硬水となると若干性質が違ってくるが、これも犬や猫に問題はないのだろうか?
「犬や猫がよくかかる病気に『尿石症』があります。これは、カルシウム、リン、マグネシウムなどの過剰なミネラルにより膀胱や尿道、腎臓に結石が形成される病気です。だぶついたミネラルは尿中に排出されますが、多すぎると溶けきれなくなり、ミネラル濃度が高くなります。すると、ミネラルは結晶化して最終的に結石となるのです。コーヒーに砂糖を入れすぎて、溶けきれずに固まった状態を考えていただくとわかりやすいと思います」
過剰なミネラルは尿石症の原因となるので注意
尿石症になると、いつもと違う場所で排尿する、なんどもトレイに行く(頻尿)、尿が赤い(血尿)、排尿するときに痛がる(排尿痛)、尿が出にくい(排尿困難)、尿がまったく出ない(尿道閉塞)…といった症状が現れるという。となると、ミネラルウォーターはペット用の水としては避けるべきなのだろうか?
「確かに硬度の高いミネラルウォーターを飲むと、尿中にカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムなどのミネラルが排泄されます。しかし硬水が尿石症を引き起こすかというと、そうとはいえないのです。たとえば沖縄の水は硬水が多いのですが、尿石症の猫が特別多いわけではないという現実があります」
確かに考えてみれば、欧米では一般的に硬水が多い。もしミネラルウォーターが即、尿石症の要因となるのであれば、海外のペットはみんなそうなってしまう。
「尿石症のリスクがある、もしくは発症したペットにはミネラルウォーターは与えないほうがいいでしょう。カルシウムやマグネシウムといったミネラルはフードに十分含まれているからです。また、尿石症のペットが食べる療法食は、水道水を飲ませる前提で作られていますから、硬度の高いミネラルウォーターは避けたほうが賢明です」
◆ウエットフードにするのも手
尿石症の対策としては、尿の量を増やす、フードや水に含まれるミネラルを制限する、尿のpH値を標準レベル(犬=6.0~6.5、猫=5.5~6.0の弱酸性)に調整するといったことが必要という。
「尿のpHを調べるための『簡易キット』が市販されていますから、ご家庭でも簡単にできます。尿石症の管理には水分量を増やすことが大切です。『水を飲んでください』といってもペットには通じませんから、一番いい方法は、ドライフードではなく缶詰などのウエットフードにすることです。これなら無理なく水分が摂れますから」
最後に、飲む水ではなくペットの体を洗うときの水についても教えてもらった。
「シャンプーは基本的には、温水プール程度の温度、30~32度程度のぬるま湯を使ってシャンプーしましょう。あまり温度が高いのはいけません。皮膚表面の毛細血管の拡張により、かゆみにつながることがあるからです。また、硬水よりは軟水のほうがいいかもしれません。国内の研究で、石けんを使って軟水でシャンプーすると皮膚炎の緩和が見られたという試験の報告があるからです。ペットと長く暮らしていくために、水のことを考えてあげるのも大切だと思います」
いまは、ペットにも安全・安心な宅配水はいろいろ出ている。ウォーターサーバーのおいしい水で、飼い主もペットも健康的な水生活を送ろう!