山梨県が導入を検討中!? 「ミネラルウォーター税」で水の価格が高騰する?
ウォーターサーバーを愛用していたり、日常的にミネラルウォーターを購入して飲んだりしている人にとっては「水はタダ」といった意識はないだろう。今の時代、クリーンでおいしく安全な水を享受するには、それなりの代償が必要なことはもはや常識といってもいいかもしれない。しかしその一方で、天然水の料金に税金が上乗せされるという話が持ち上がっているのをご存じだろうか? 今回は、その件に関してレポートしてみたい。
◆山梨県は天然水の宝庫
「ミネラルウォーターに税金を…」と検討しているのは、実は山梨県。2019年2月、同県議会は県内での地下水採取に対する税金を導入する提言を可決した。この税金は法定外普通税(使い道に汎用性のある税)になる予定という。またこの税に関しては、「ミネラルウォーター税導入に関する政策提言案作成委員会」も立ち上げられている。導入する理由は、同県の財政の厳しさにあるとのこと。
しかしなぜ山梨県なのか? 実は同県は、ミネラルウォーターの生産量が全国1位なのだ。実際の数字で見ると、「日本ミネラルウォーター協会」の調べでは、2017年の同県のミネラルウォーター生産量は142万キロリットル。全国に占める割合はなんと43%に上る。2位は静岡県の54万9000キロリットル。このデータを見れば、いかに山梨県がミネラルウォーター大国かがわかるはずだ。この大量に製品化されている水に課税すれば、非常に大きな財源となるわけだ。
実際、ウォーターサーバーでも山梨県の水を利用しているメーカーは多い。「プレミアムウォーター」、「フレシャス富士」、「サントリー南アルプスの天然水」、「富士桜命水」、「マーキュロップ」、「シンプルウォーター」などは、同県の採水地からくみ上げた水だ。
ウォーターサーバー以外に、さまざまなペットボトル入りミネラルウォーターも作られていて、中には地域限定の製品もある。さらに飲料水にとどまらず、酒や食品、菓子など多くの加工食品類の原料としても活用されている。
山梨県の水の質が良好であることは、環境省の「名水百選」を見てもよくわかる。八ヶ岳南麓高原湧水群、尾白川、御岳昇仙峡、金峰山など7か所がこれまでに選出されているのだ。そして、こうしたいい水の産出に大きな役割を果たしているのが、富士山だ。
富士山には一般的な山のように、常に水が流れている沢や川がないため、降った雨や雪は地下に浸み込んでいくしかない。そして富士山は度重なる噴火で、溶岩の層がいくつも重なっている。この層が天然のフィルターになり、長い年月をかけて地下水となっていくのだ。その間に水は浄化されるほか、さまざまなミネラルが溶け込んでいく。特に富士山麓の地下水にはバナジウムというミネラルが豊富に含まれており、これは他ではあまり見られない特長となっている。しかも、マグネシウムやカルシウムも含めたミネラルの含有量も多すぎないため、まろやかで飲みやすい水となっている。
天然水も課税される時代に?
◆課税実施の可能性は?
私たちが日常、何気なく飲んだり食べたりしているものの中にも、山梨県の名水を使った製品がある可能性は高い。もし水自体が課税対象となった場合、何らかの形で商品価格に反映されることは、あり得ないことではない。ウォーターサーバー用の水もペットボトルウォーターも、単にその辺の水をくんでいるわけではなく、汚染の影響を受けない場所を選び、地下深い井戸を掘り、なおかつその水がおいしいかを判断し、ろ過や殺菌を行って出荷される。当然、すでにそれなりのコストがかかっているのだ。
果たして今後「ミネラルウォーター税」が、私たちの生活に影響を与えることになってくるのだろうか?
実は山梨県では、過去にも「ミネラルウォーター税」のような税金の導入を検討したことがある。徴収した税金は、地下水の環境保全などの用途を想定し、長い目で見れば企業や消費者や住民に対するメリットが考えられた。
しかし前述したとおり、水そのものだけでなく食品や飲料などの原水としても多用されているため、多くの企業から異論が出された。また全国的に見ても、自治体が地下からくみ上げた水に対して法定外普通税をかけた例はない。今回も、税の導入に関する委員会では、各企業に与える影響について、さまざまなシミュレーションを行っているようだが、そう簡単にはいかないだろうという見方が多いようだ。
山梨県は富士山からの水の恵みを受けている
地下水の採取でときどき問題となることとしては、地盤沈下が挙げられる。大量の地下水をくみ上げたことで、水圧による支えが弱くなり地盤沈下が起こった例は、過去に国内外でいくつも例がある。この点については、山梨県でも10か所の13の観測用井戸で地下水位を調査していて、その結果、現在までのところ問題となる状況ではないと県では発表している。水質に関しても極度の汚染が起こっている地域もなく、課税の理由を地下水保全とするのは、やはり理解が得られにくいかもしれない。
前例がないうえに水の名産地ということで注目を集めている本件だが、実際問題としてミネラルウォーター税の実現にはハードルが多いようで、どうやら近々に水の価格が高騰する心配はしなくてすみそうだ。