ウォーターサーバー用の水で北海道産をあまり見かけない理由って…?
日本の国内で「大自然」に触れることのできるスポットと聞くと、どこを思い浮かべるだろうか? 世界遺産にも登録されている富士山や白神山地、屋久島などは真っ先に挙がるだろうが、北海道の大地を想像する人も多いのではないだろうか。広大で豊かな自然に恵まれ人工物が少ない土地では、いい水も湧き出ているイメージがある。しかし、不思議とメジャーなミネラルウォーターで、北海道産と銘打ったものは少ない。そこで今回は、北海道の水について各種のデータからリサーチしてみることにする。
◆大自然が生んだ北海道の名水
ミネラルウォーターの産地として人気があるのは、何といっても富士山周辺だ。ウォーターサーバーの水だけでも、「プレミアムウォーター」、「フレシャス」、「富士桜命水」、「うるのん」、「キララ」をはじめ、非常に多くのメーカーが使用している。日本を象徴する“霊峰富士”というネームバリューやブランド力が強いだけでなく、水質は良好で、おいしさについても高い評価を得ている。バナジウムというミネラルが豊富であるという特長も、人気を後押ししている理由の一つだろう。ちなみに富士山を有する県の一つ山梨県は、日本のミネラルウォーター生産量の40%を占めるという一大産地だ。
一方、熊本県の阿蘇山周辺もいい水が出ることで知られている。この山からの恵みがあるため、70万人以上の人口を擁する熊本市は、水道の水源をすべて地下水でまかなっている。水質もいいため、阿蘇は「プレミアムウォーター」の採水地の一つでもあるし、「日田天領水」が水をくみ上げている場所も、この周辺エリアに属する。
その他の人気産地では、鳥取県の大山がある。日本コカ・コーラのボトルミネラルウォーター「いろはす」はこの山系の水を使っているし、サントリーも採水工場を設置している。さらに、長野県や京都府も、キレイでおいしい水がセールスポイントになっている。
しかし北海道の水は意外にも、これらのように全国的な水のブランドとしてそれほど一般的ではない。では、北海道には名水がないのかというと、決してそんなことはない。環境庁(当時)が1985年に選んだ「名水百選」では、利尻富士町の「甘露泉水」、京極町の「羊蹄のふきだし湧水」、千歳市の「ナイベツ川湧水」が挙がっている。
甘露泉水は、離島である利尻島にそびえる「利尻富士」の麓の湧水で、簡易水道として全戸に供給されている。弱アルカリ性で、水に含まれるカルシウムとマグネシウム量は1リットルあたり15ミリグラム前後。水中のミネラル量は少ない方が、口あたりがまろやかになるといわれており、利尻の水の数値だと、かなり優しい味わいになってくる。住民だけでなく、同島を訪れる観光客や利尻富士登山客にも好評を博しているそうだ。
登山客にも人気の「利尻富士」の麓からは名水が湧き出る
また、羊蹄山の水もナイベツ川湧水も自然に囲まれた地域を源流としており、長年の雨や雪が浸透して出来上がった清らかな水。上水道用としても利用されていて、選定から30年以上経ったいまでも、良好な水質を保っているという。ちなみに、羊蹄山の水は「京極のふきだし湧水」という商品名で、ミネラルウォーター製品にもなっている。
2008年の環境省の「平成の名水百選」でも、美深町「仁宇布の冷水と十六滝」、東川町の「大雪旭岳源水」の2か所が選ばれている。「大雪旭岳源水」はそのまま商品名となり、ペットボトル入りミネラルウォーターとしても販売されている。これは、北海道を代表する山、大雪山連邦から長い年月を経て旭岳の麓で地上に湧き出た水を、高度なろ過技術により加熱処理なしでボトルに詰めたもの。ミネラル量は日本の水としては珍しく多く、1リットルあたり94ミリグラム。いわゆる「硬水」に近い。ミネラルが多い水は、独特の味がすることが知られており、実際に販売している東京・有楽町の「北海道どさんこプラザ」で聞くと、この水の場合「味がしっかりしている」と評されることが多いとのこと。
「大雪旭岳源水」500ミリリットル入り
◆最大のネックは輸送コスト
北の大地である北海道はご存知のとおり、降雪量も多い。春になって溶けた雪は、ゆっくりと地面にしみ込み、数年、数十年といった時間をかけて岩石層でろ過され、不純物の少ない地下水になる。大小さまざまな山や、それを源とする川、手つかずの原野や原生林が各所に存在する北海道で、いい水が出ないわけがない。前述したように、名水百選とリンクしたミネラルウォーターも好評だ。
ではなぜ北海道の水は、ウォーターサーバー用としてはまず見ないのか? ウォーターサーバーメーカー広報担当のAさんに聞いてみると、答えは実に単純明快だった。
「輸送コストの問題が一番大きいですね。ペットボトル商品で店頭に何十本か並べて買っていただくのと違って、ウォーターサーバーの場合は定期的に安定供給しないとなりません。そうなると膨大な量の水が必要となります。水は1リットル1キロ。これを軽くすることも体積を小さくすることもできないので、輸送コストを下げることが難しいんです」
北海道も海底トンネルでつながってはいるが、同じ本州内の採水工場から運ぶ方がコストが安くなることは想像に難くない。その逆もまたしかりで、本州のウォーターサーバーメーカーでは、北海道への宅配を別料金にしていたり、札幌のような市街地以外を対象外としているところもある。
いつか、北海道の名水を自宅のウォーターサーバーでも自由に味わえる日がくるかもしれない。しかし現在のところは、アンテナショップや通信販売で取り寄せるなどして大自然の恵みを楽しむことにしよう。