美味しい水で美味しいお茶を! ベストな組み合わせを専門家が解説
せっかくいい水を使っているのなら、単にお茶をいれるのではなく、より美味しくいただきたいもの。そこで、世界のお茶に携わって半世紀、日本緑茶センター株式会社会長で薬学博士でもある北島勇さんに、美味しいお茶を抽出する適温とお湯の沸かし方を聞いた。
◆茶葉の栽培方法で適温と時間は大きく違う
「お茶をいれるには、少し冷ました湯がいい」などと聞いたことがある人は多いと思います。でも、必ずしもそうではないのです。お茶の特性によって適した温度は違うのです。アミノ酸などによる旨み、タンニンやカテキンなどから出る渋み、お茶そのものの香りなどを効果的に引き立たせるには、いれ方を変える必要があります。
お茶の種類によってお湯の温度を変えることが大事
まず日本人に一番なじみの深い緑茶から説明しましょう。3人前のいれ方です。
並クラスの煎茶では、大さじ2杯を430ccのお湯でいれます。温度は90度で、浸出時間は60秒。温度は高めで短時間です。これが玉露になると、湯の温度は50~60度、60ccのお湯で120~150秒という時間で浸出させます。玉露は温度を低めに、時間をやや長めにと覚えておくといいでしょう。
その理由は、茶葉の栽培方法の違いにあります。通常の茶葉は日当たりの良い環境で育てますが、玉露は栽培の途中で影を作って、日光をさえぎります。こうすると渋みの元となるカテキンが少なく、旨み成分であるアミノ酸などが増加するのです。高温の湯で出そうとすると、せっかくの旨みを引き出すことができず、玉露の味わいを消してしまいます。
番茶や焙じ茶は、3人前なら茶葉は大さじ3杯で、650ccの熱湯を使って30秒程度でいれます。長時間の浸出を続けていると、渋みや苦みが強くなってしまいます。玉露とは正反対ですね。
次に覚えておきたいのは、中国茶や紅茶のような「香りを楽しむタイプのお茶」です。これらは、沸かしたての熱いお湯を使うほうがいいのです。ウーロン茶やジャスミン茶、キンモクセイから作られる桂花茶などは、熱湯で香りを一気に引き出すことがポイントです。沸騰したときの空気がティーポットの中で激しく対流し、茶葉にジャンピングという現象を起こさせることで香りと味を効果的に引き出すのです。
ところで、お湯は沸騰したらいつまでもボコボコと沸かし続けていてはいけません。沸騰したら、すぐに火を止めることが非常に重要です。水の中にあった酸素が抜けてしまうからです。酸素が残っていないとポットや急須の中で対流が起こりにくくなって、ジャンピングも不十分になります。電気ポットなら沸いた瞬間にスイッチが切れるので便利かもしれませんね。できればお湯は使い切って、その都度沸かしたいものです。
低温の湯を使いたいときは、沸騰したお湯をいったん茶碗に注いで茶碗を温めてから、茶葉を入れた急須に入れるという方法が一番いいでしょう。温度の目安は、茶碗を手のひらで持つことができる程度が60度前後。これより熱ければ70度くらい、ぬるく感じるようなら50度以下になっていると考えましょう。
◆水質で変わるお茶の味を楽しもう
最後に水質です。硬水と軟水いう分類を聞いたことがある方も多いと思います。硬水はミネラル分が豊富に含まれている水、軟水はミネラル分が少ない水で、日本の水は軟水がほとんどです。ミネラルウォーターは硬水ということになります。ミネラルにはお茶の浸出に対する働きがあるので特性を知っておきたいものです。
硬水の特徴はミネラルが多いことですが、ミネラルは茶葉の成分を浸出させにくい性質があります。またタンニンの渋みをマイルドにするので、全体的に柔らかい味になる傾向があります。軟水は旨みも渋みもどんどん浸出させます。
軟水でいれた紅茶は旨みも渋みもハッキリと出る
紅茶でいれると、その違いがハッキリします。硬水でいれた紅茶は渋みが少ない味。軟水でいれた場合は、味や香りが強いだけでなく渋みもハッキリしたものになります。まろやかな味が好きなら硬水、お茶の渋みを味わいたいなら軟水と、好みに合わせて使い分けたらいいと思います。
ちなみに硬水でいれると、タンニンとミネラルが結びついて黒っぽい紅茶が出来上がります。おそらくヨーロッパで紅茶を飲んだことがある人は、日本の紅茶より色が黒いと感じたのではないでしょうか。
温度、沸かし方、水質など、水ひとつでお茶の味は全く違うものになります。いれ方をちょっと変えることで美味しくなれば、お茶の時間がもっと魅力的になるでしょう。味と香りを少しでも長く楽しみたい場合は、フタを用意して、ひと口飲んだらかぶせるようにしておくことをオススメします。私はどんなカップを出されてもフタができるように、「myフタ」を常備しています。
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美味しいお茶を楽しむのなら、水の味にもこだわりたいところ。硬水のペットボトルウォーター、ウォーターサーバーのお気に入りの水など、いろいろ試してみるのもいいかもしれない。
【プロフィール】
北島 勇(きたじま・いさむ)氏:薬学博士。1939年東京都生まれ。1962年慶応義塾大学法学部卒業。1969年日本緑茶振興センターを開業。1980年、現社名に変更。日本モロッコ協会副会長、日本ハーブ協会連絡協議会理事、東京商工会議所新宿支部副会長、日本中国茶普及協会会長、日本マテ茶協会会長など兼任。著書に『二十一世紀を生きるティーライフ健康法』(誠文堂新光社)など多数。日本のハーブ業界の草分け的存在。